入院時期

 陣痛が強く規則的になると入院の時期です。できるだけ来院前にお電話ください。陣痛が来たとき、破水、大量な出血または異常な痛みなど今までの妊娠中と異なる感じがある場合は、特に経産婦の方はかならず連絡をお願いします。長い時間胎動が感じられないなど何でも疑問に思われたら、院内直通回線 0827(41)2917 でアナウンスに従ってピー音に続けて、内線番号 519 におかけください。他用などですぐ出られない時もありますが、必ずでますのでしばらくそのままお待ちください。急がれる場合は代表番号 0827(41)0850 でも結構ですのでおかけください。

分娩

浣腸──刺激による陣痛強化と便による赤ちゃんの汚染を防ぐ目的でなるべく早く行います。
剃毛──清潔のため行うところもありますが当院では普通行いません。帝王切開の場合も術野の清潔目的では原則行いません。
分娩室、分娩スタイル──分娩室で座位分娩、仰臥位が原則です。
 希望によっては「畳の間」での自由度の大きいお産も可能です。希望によってはレイバーボールも使用可能です。
音楽──好みのCDやヒーリングミュージックを聞きながらの分娩をおすすめします。
 自分の毛布や写真持参可能です。
 陣痛中は歩行や自由な体位でリラックスしてください。
陣痛時──軽食や水分摂取可です。帝王切開になった場合、お腹がいっぱいだと腰椎麻酔や硬膜外麻酔は可能ですが、全身麻酔は不可能な場合があります。
点滴による血管確保──万一の大出血事故にそなえて血管確保はおこなうのを原則としています。
胎児心拍モニター──赤ちゃんの安全のためなるべく頻回におこないます。
会陰切開──原則行いません。放置すると過大な裂傷が起きる危険が迫った場合は施行します。
夫や家族の立会い分娩──「チャレンジング・デリバリー」のたいせつな要素であり立ち会われることをおすすめしています。
吸引分娩、鉗子分娩、骨盤位検出術──いずれも「チャレンジング・デリバリー」が第一選択であり自然分娩をめざします。児に危険が迫った時には医師の判断でご本人たちと相談の上、最小限の処置をおこないます。鉗子分娩は止むを得ない時のみですが、強力な吸引分娩より鉗子分娩の方が児のリスクが少ないと考えています。
帝王切開──もちろん「チャレンジング・デリバリー」が原則ですが医学的必要やむを得ない場合、腰椎麻酔下を原則としています。ベビーへの影響がない点で、全身麻酔より腰椎麻酔や硬膜外麻酔が良いと考えています。その場合も家族の同伴をおすすめします。ヒーリングミュージックも分娩時と同様可能です。出生後早期のベビータッチなども自然分娩時とほぼ同様です。授乳は出生後、お部屋に戻ってからとなります。
 分娩時には帝王切開時も含めて、写真、ビデオ、録音など自由にされてかまいません。
生まれた赤ちゃんとの触れ合い──出生後早期の赤ちゃんとママとのスキンシップを大切にします。助産師・看護師の援助のもとに行ってください。
痛みの軽減──リラックス法、体位変換、歩行、マッサージ、フィットネスボール、呼吸法、入浴、シャワーなどがあります。
無痛分娩──精神的無痛分娩、全身麻酔、針麻酔、硬膜外麻酔、腰椎麻酔、陰部神経麻酔、などの種類があります。
 日本ではまだまだ無痛分娩はそれほど多くはありませんが、だんだん普及しています。当院では欧米特にアメリカ人は硬膜外麻酔をほとんどの人が希望されます。お腹を痛めて産むことが大切という考えが日本で昔からありますが、必ずしも分娩には痛みは必要ではありません。むしろ無痛分娩によってお産がスムーズに進行して「チャレンジング・デリバリー」が容易になるというメリットがあります。アメリカ人の場合、極端に痛みに弱いこともあり、パニックになるところを、硬膜外麻酔で痛みをやわらげると上手にいきむことができるようになり、アクティブな姿勢でお産に向かわれることがよくあります。
 分娩の初期から長時間にわたって継続できることやいわゆる「いきみ」を阻害しないため自然分娩が可能な点などが多くの人に硬膜外麻酔が好まれる理由です。胎児や産婦さんの呼吸機能に影響を与えない点は、なにより硬膜外麻酔が分娩麻酔に向いている長所であります。その他でも、かなりの難産でも硬い頚管や軟産道の緊張がとれて分娩の進行が早くなったり吸引分娩、鉗子分娩その他の手技が容易くなったりと言う利点もあります。妊娠高血圧の場合など硬膜外麻酔で産婦さんが落ち着くと血圧も下がって分娩がスムーズになるケースも良く経験することです。持続硬膜外麻酔を続けていると、急に胎児心音が悪化して、緊急帝王切開が必要な時にはそのまま手術が施行されるのも大きなメリットです。
 分娩後の大出血は昔も今も産科医がもっとも神経を使うところです。持続硬膜外麻酔をセットしてあると頚管縫合などの出血対策がすばやくスムーズに行われる利点があります。
 帝王切開の麻酔は、全身麻酔や脊椎麻酔が一般には好まれますが、胎児に影響のない点から脊椎麻酔が第一選択であります。
 陰部神経麻酔は出口部のみの痛みを取りますので、吸引分娩、鉗子分娩や会陰切開時には推奨されます。
 以前は手術の傷のなおりが悪い等の理由で会陰切開や裂傷の処置に局所麻酔をしないなどということがありましたが、当院ではご本人が望まれない時以外はなるべく陰部神経麻酔など局所麻酔はしたほうがよいと考えています。
陣痛強化──陣痛強化剤はどうしても必要な時のみに行われます。

 

産後

授乳指導──母乳栄養を推奨します。いずれにしてもベビーの正しい食習慣の確立こそ将来の肥満防止の第一歩であります。
沐浴指導──「沐浴」とは、まだおとなと同じお風呂に入れない新生児の赤ちゃんを、ベビーバスなどで洗ってあげることです。産後の入院中に、看護師さんや助産師さんによる指導があります。
食事──わたくしたちは、入院中の食事は食事指導のよいチャンスと考えています。管理栄養士さんの指導による低カロリー、高栄養価でバランスの良いメニューです。ぜひ参考にして正しい家族みんなの健康を守る食習慣を身に着けていただくようおすすめします。

産後のメンタルケア
 予想より分娩の苦痛が大きかったことや痛みのトラウマ、胎盤やベビーの娩出によるホルモン環境の激変、授乳や泣き続ける赤ちゃんのむずかしい扱いなどなどが原因で、多くの新米のお母さんがブルーに悩まされます。
 これは、完璧主義の人に多いといわれます。出産にむかってチャレンジ精神で立ち向かったお母さんでもひと仕事し終わったあとの虚脱感もありましょう。
 ここにこそご主人の出番があります。いちどに押し寄せるストレスに悩むお母さんに、支え、援助し、ほめたたえ、感謝の言葉をかけてあげるのはパートナーの言葉が一番うれしいものです。それに「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」とブレーキをかけるのもお父さんの役目です。理想的なお産をし、一点のくもりも無い育児のできるお母さんなどありえません。
 妊婦さんひとりに妊娠、出産、育児をまかせるのではなく、家族みんなで健康な子供を育てる努力がなにより大切です。
 あれだけ痛みに弱く、陣痛のつづく間はまいってしまうアメリカの婦人が手術でも産後でもみごとな回復をみせます。かれらは体力があるから産後直ぐにでも歩きシャワーもあびるのかと思っていましたが、逆で、早く動くから早く元気に活動できるようになるのだと気づきました。最近では外科手術後でも早期離床が広くおこなわれています。大きな開腹手術などでも翌日にはベッドから起き上がって歩くよう指導されます。その方が傷の治りや腸の動きも早く癒着も少ないことが立証されています。私自身手術の後で、少しでも歩くことでぼんやりしていた頭がはっきりし悲観的な考えが薄らいでくる経験をしました。
 チャレンジング・デリバリーでも同じで、正しい食事と太陽をあびて散歩することはもっとも良い治療法です。
 人生の最初のステップでもっとも頼りとするお母さんが暗い表情で接すると、敏感な赤ちゃんはそれに反応してしまいます。
 チャレンジング・デリバリーでも早期治療がよりよい治療効果をもたらします。ブルーにたいする漢方はよい効果がありますので、すぐ涙がでる、眠れない、赤ちゃんが泣くのに耐えられない、お乳がでないのは自分が悪いのだと悩む、などの症状がつよい方は早めにご相談ください。